徒然通信・桃世亭

好きな作家・三島由紀夫のこと、その他を徒然に綴ります。

三島由紀夫とディープステイト

ディープステイト(影の政府)というと、一般的にはただの陰謀論だということになっていますが、ディープステイトなるものを信じる人々が多くいることも、また事実なのであって、国際金融財閥の存在などを考えると、まるっきり嘘八百とも言いきれない要素もあるように個人的には感じます。

 

私は、このディープステイトという言葉を知った時、三島由紀夫の最後の長編小説『豊饒の海』の第四巻『天人五衰』の中の一節をなんとなく思い出し、もしかして三島由紀夫もそんな影の政府的なディープステイトの存在を想像していたのではないかなと思いました。その一節は、主人公の安永透が、狂女の絹江に向って言う台詞です。

 

「それは多分さうだらうけれど、僕は君のやうな美しい人のために殺されるなら、ちつとも後悔しないよ。この世の中には、どこかにすごい金持の醜い強力な存在がゐて、純粋な美しいものを滅ぼさうと、虎視眈々と狙つてゐるんだ。たうとう僕らが奴らの目にとまつた、といふわけなんだらう。

さういふ奴相手に闘ふには、並大抵な覚悟ではできない。奴らは世界中に網を張つてゐるからだ。はじめは奴らに無抵抗に服従するふりをして、何でも言ひなりになつてやるんだ。さうしてゆつくり時間をかけて、奴らの弱点を探るんだ。ここぞと思つたところで反撃に出るためには、こちらも十分力を蓄へ、敵の弱点もすつかり握つた上でなくてはだめなんだよ。

純粋で美しい者は、そもそも人間の敵なのだといふことを忘れてはいけない。奴らの戦ひが有利なのは、人間は全部奴らの味方に立つことは知れてゐるからだ。奴らは僕らが本当に膝を屈して人間の一員であることを自ら認めるまでは、決して手をゆるめないだらう。だから僕らは、いざとなつたら、喜んで踏絵を踏む覚悟がなければならない。むやみに突張つて、踏絵を踏まなければ、殺されてしまふんだからね。さうして一旦踏絵を踏んでやれば、奴らも安心して弱点をさらけ出すのだ。それまでの辛抱だよ。でもそれまでは、自分の心の中に、よほど強い自尊心をしつかり保つてゆかなければね」

――三島由紀夫天人五衰

 

三島由紀夫自死の約3か月前、友人のヘンリー・スコット・ストークスに、「日本人は金に目がくらんだ。精神的伝統は滅び、物質主義がはびこり、醜い日本になった」といった主旨のことを語った後、「日本は緑色の蛇の呪いにかかっている。日本の胸には、緑色の蛇が喰いついている。この呪いから逃れる道はない」と謎のような言葉を残しました。

 

この日本の胸に喰いついている「緑色の蛇の呪い」とは、何のことをなんでしょうか。ちなみにその意味をずっと考え続けていたヘンリー・スコット・ストークスは、この「緑色の蛇」が「米ドル」(緑色の紙幣)のことだと1990年(平成2年)頃に解ったのだそうです。アメリ中央銀行FRB、国際金融資本のことを指すのでしょうか。。。

 

参考文献

三島由紀夫『決定版 三島由紀夫全集14巻 長編14』(新潮社、2002年1月)ISBN 978-4106425547

三島由紀夫天人五衰――豊饒の海・第四巻』(新潮文庫、2003年4月)ISBN 978-4101050249

ヘンリー・スコット=ストークス『三島由紀夫─死と真実』〈徳岡孝夫 訳〉(ダイヤモンド社、1985年11月)ISBN 978-4478940563

*改訂版は『三島由紀夫 生と死』(清流出版、1998年11月)ISBN 978-4916028525